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私の師、故北村重憲氏(番外編3)

万二郎岳に登頂し、今度は下山を開始しました。

北村さんは私よりも背が高く、手足が長いスラっとした体型です。

その長い足で、ずんずんと歩くものだから、たまにズルっと滑ります。

山歩きは私の方が慣れているようで、北村さんにもっと小股で歩くと良いですよ、とアドバイスしながら山を下って行きます。

下りの歩き方に慣れてくると、北村さんも哲学の時間になり、またブツブツと経営について、己の人生についてなど、自己との対話モードになってきました。

登りと違って、疲れも出てきていますから、あまり私に話しかけると言った感じではありません。

この時(2008年、秋)私たちは経営上の大きな問題を抱えていました。

リーマンショックから数か月経ち、徐々に日本にも不況の波が押し寄せてきたのです。

2006年頃から滞在型リゾートの世界では「ディスティネーションスパ」というコンセプトが流行り出し、ヨガやマインドフルネスなどのウェルネスプログラムが充実したタイのチバソムが一躍有名になっていました、今でいうリトリート施設です。

北村さんも私も、そのディスティネーションスパを目指していました。

私も、2008年7月修善寺にディスティネーションスパ鬼笑、2008年12月熱海にディスティネーションスパ椿を立ち上げます(今も内容や名前が変わって現存するようです)

※このディスティネーションスパの言葉は、あまり浸透せず、この分野は「リトリート」や「ウェルネスツーリズム」と名前を変えて浸透して行きます。

転地による自然への回帰はスパに限った話ではありませんから、より様々な分野でも応用できるように(亀リトでは温泉×グランピング×自然体験をリトリートと表現)より広義になって行きました。後に私も滞在型リゾートからリトリートへと夢を進化させて行きます。

リゾートとリトリートの違い(豊島持論)

時はリーマンショックのど真ん中、旅館やホテルでの新規事業はことごとく失敗しているタイミングでしたが、それでも毎月、全体の売り上げを押し上げ昨年対比を上回り続けます。

しかし、投資筋からは北村さんや私が考えていた、その後の中長期的なディスティネーションスパの計画は反対され事業計画は縮小、より短期的な利益を周囲からは求められました。

私も悩んでいましたし、北村さんも、ここが大きな悩みの種でした。

カルクナーレで北村さんと会った時「目先の利益を捨てて、日本に滞在型リゾートの文化を浸透させよう」と声を掛けてもらいました、そのために私もテルムマランを退職して伊豆に乗り込んできたのです。

しかし、その後、襲ってきたリーマンショック、経営環境は一変します。

そのことは、常に北村さんや私の頭にあり24時間離れる事はありません。

北村さんは、平素から経営は必ず「中長期、短期、緊急」の3段階に時間軸を分けて考えること、と仰っていました。

しかし今回は、伊豆を足掛かりに日本に滞在型リゾート(今で言うリトリート)を根付かせるという目先の利益を捨てた中長期の時間軸で動いていました(具体的には今日のゴルフの売上がどうこうではなく、チバソムのようなディスティネーションスパを日本に作ること)

それぞれの環境で、目先の利益に追われる事に嫌気がさして合流した2人「伊豆の踊男」が、お互いの大きな夢である中長期計画を捨てて短期戦略や緊急対応に追われる事は、当時の私達には苦行中の苦行だったのです。

小股で下山していた北村さんは、突如、何かを悟ったようでした、ブツブツ言っていた声が怒号に変わります。

どうやら、私がお教えした下り坂歩きのコツを、経営の時間軸に当てはめて自分なりの答えを出したようです。(番外編4 完結に続く